Appleによる広告ブロックが論争を巻き起こしています。
この問題、情報が混乱しているので一度整理してみます。私自身も結構勘違いしているところがありました。
そもそもどんな仕組みなの
今回の騒ぎの原因になっている機能、正しくは「広告」ブロックではなく「コンテンツ」ブロックです。そして、ブロックするコンテンツを決めるのはAppleではありません。
「あのAppleがiPhoneでウェブ広告をブロックする!Googleと潰しだ!」なんて話にもっていくのは正確さを欠きます。
こういう情報が混乱しているときは原典にあたるのが一番です。ということで、WWDCでの動画を見てみます。
Safari Extensibility: Content Blocking and Shared Links - WWDC 2015 - Videos - Apple Developer
この動画を見てわかるのは、コンテンツブロックがユーザーの手元に届くまでに、
- 開発者がブロックするコンテンツリストを作成する
- 開発者がSafari機能拡張のギャラリーに作成したものを登録する
- ユーザーはそれをSafari機能拡張ギャラリーからインストールする
- ユーザーは明示的にコンテンツブロックリストを有効にする
という手順が必要です。
今回の機能が「Safariの機能拡張でコンテンツをブロックをできる仕組みの提供」である事がよくわかります。まぁ、Appleとしては、この機能を提供すれば開発者が広告ブロック作るというのは想定しているでしょうが……
なにがブロックされるのか
WWDCの動画を見れば分かりますが、コンテンツのブロックルールはかなり柔軟です。
ディスプレイ広告? インフィード広告? お前らまとめてブロックだ!!
ルールが存在するものは片っ端からブロックできます。CSSセレクター、メディアタイプ、通信相手などなんでもござれです。
ブロックできるのは「広告」に限りません。サードパーティCookieを埋めるためのスクリプトだったり、トラッキングスクリプトだったり。もちろん特定パスを含んだ画像なんかも可能です。
ルールを頻繁に変えるメディアやアドテク企業、それを追いかけるブロックリスト開発者。イタチごっこが始まりですね。
影響はいかほど
多くのユーザーは、わざわざSafariの機能拡張をインストールしてコンテンツブロックを有効化しないと思うんです。これを明示的にやるユーザーは、現在も広告をクリックしていないでしょう。
こう考えると、今回の機能が広告に与える影響は限定的だといえそうです。
ただ、雰囲気を利用したネイティブアドの営業は増えそう。「通常のウェブ広告はブロックされてますよ。これからはネイティブアドですよ。ネ・イ・ティ・ブ・ア・ド」的な。想像ですが。
広告が嫌われすぎワロタ
こんな機能が作られるのも、それが賛同をあつめるのも、根底には「広告が嫌われすぎワロタ」という状況があります。
コンテンツを阻害したり、誤タップを誘導したり、無差別にアダルト広告が出てきたりする状況が改善されない限り、長期的にみれば広告はユーザーから見放されるでしょう。
広告主は、消費者をだますような広告をつくるべきではないし、ダメなところに広告を出すべきではない。
アドテク側も、アトベリや不適切なサイトの取引を止めるなどの健全化が必要です。焼き畑はもう限界。
メディア側も誤タップを誘導するような誰も幸せにならない事は今すぐやめて欲しい。
ウェブ広告もウナギと同じように保護が必要なフェーズです。絶滅する前に関係者全員で資源管理しないと、だれからも見向きされなくなって市場自体が縮小、消滅してもおかしくありません。
誰が広告を消していいのか?
「広告うざい」という気持ちは非常によく分かるのですが、だからといって勝手に消すことには違和感があります。
「あの広告は自分のネット体験を阻害しているから消す」、言わんとすることはわかります。
これをリアルで置き換えてみるとどうでしょうか? 「うざい看板広告が自分の散歩体験を損なっているから撤去する」、きっと警察に捕まりますよね。
なぜ、オンラインなら許されるのでしょうか。本来、広告を消す権利は当事者しか持っていないはずです。
広告でご飯を食べている人はたくさんいます。みんな霞を食べて生きてはいけません。つくったコンテンツだけ消費されて、広告収入を得られないというのは、やっぱりおかしいと思うのです。
「心情としての広告うざい」と「広告を勝手に消して良い」は別問題。ここは丁寧な議論を望みます。
騒ぎの原因であるiOS9から提供される(予定の)コンテンツブロックが及ぼす影響は限定的でしょう。
しかしせっかくの機会なので、Web広告はどうすれば持続可能なのか?という話が進んで欲しいと思う次第です :)