やっぱりテニスは面白いー才能・時代に愛される錦織選手がくれるモノ

 テニスに「メンタル」「テクニック」「身体」という3つの才能があるとしたら、最もテクニックの才能に溢れた選手は『ヒシャム・アラジ』だと思っていた。

 『アラジ』のシングルバックハンドでのストレートパスを初めて見た時は、比喩ではなく本当に鳥肌が立った。「テニスってこんなショットが出来るのか! 」というテニスの可能性を見せてくれた。(影響されてバックをダブルハンドからシングルハンドにしようと試みたが全く出来ずに絶望したのは内緒だ……)

 往々にして「テクニック」の才能に愛されすぎた選手は、「メンタル」「身体」には恵まれず、一瞬の輝きは眩しいものの、輝きが不安定で長期で見た成績はイマイチで終わってしまう事が往々にしてある。『アラジ』もあれだけの才能がありながらランキングは最高22位で終わってしまった :/

 ただ、才能にあふれていながら活かしきれない「テクニック」の溢れる選手は、不安定ゆえの魅力がありそれ自体がテニスの面白みの一つではある。


 「メンタル」「テクニック」「身体」、いわゆる心技体が揃っているテニス選手は本当に稀だ。近年の男子では『サンプラス』『フェデラー』二人くらいなものだ (異論は認める。

 1990年代の『サンプラス』は正直異常だった。精密機械という通名のそのままに淡々とポイントを取っていく様は「面白くないテニス」なんて非難される事があったが、全くそんなことはない。心技体全てが揃ったテニスという「テニスの完成形の一つ」を通してテニスの奥深さを教えてくれた。

 そんなサンプラスを2001年のウィンブルドンで破ってから、世界王者への階段を爆走し、今なおBig4として君臨し続けているフェデラーのテニスも一つの完成形だ。サンプラスがサービスアンドボレー主体のオールラウンドテニスなら、フェデラーのそれはグランドストロークベースのオールラウンドテニスで、この二つの「テニスの完成形」をリアルタイムで見ることができた事は本当に幸せだと思っている。


 心技体の「体」が欠けているからこそ輝くスターというのも存在する。ハンデを負っているにも関わらず、それを努力で補っていく様はそれ自体がドラマとなり、プレー以外も含めたテニスの面白さを教えてくれる。

 代表は『アンドレ・アガシ』だ。180センチというテニス選手としてはハンデを背負いながら、絶対的なグランドストローク力でキャリアグランドスラムを達成した『アガシ』はテニス史上トップクラスのスターである。

 若くしての成功、そして挫折。そこからの復活劇。そこに『サンプラス』というライバルの存在。極めつけは頭髪の秘密を公開 :)

 時代にも愛されたのが『アガシ』の特徴だ。ビッグサーバー全盛にリターナーとしての才能を持ったアガシの登場は狙ってできるものではない。ランキング1位の時でも何故かアガシはチャレンジャー、ヒーローとしての立場で観客を味方に付け、そして彼らを魅了した。

 漫画でも出来過ぎだ。


 で、我らが錦織選手である。

 錦織選手が2008年の全米快進撃で見せつけた、才能溢れるテニスを見た時は電流が走った。あんな手首の使い方を日本人ができるとは思わなかった。あれを見た時は『アラジ』を超えて、テニス史上もっともテクニックの才能があるのは、この日本人の若者だと確信した。

 ただ、恵まれない体躯からくる怪我の頻発や、今ひとつ乗り切れないメンタルを見るにつけ、『アラジ』等の「才能には恵まれたが大成は出来なかった選手」の面影を見てしまいがちだったのも事実だ。

 そんなオッサンをあざ笑うように、錦織選手は年々成長を遂げていっていたが、見る目のないオッサンはどうしてもそれを信じる事ができず、「応援する」「楽しむ」というよりヒヤヒヤと「心配」をしてしまっていたのだ。

 そんな頼まれてもいない大きなお世話は杞憂であったことが今年証明された。

 テニス観戦を「違う国の人が活躍するスポーツ」から、「世界で戦う日本人を応援して楽しむ」というものに変えて、日本の多くの人に感動を与えてくれた。

 サンプラスにとってのティム・ガリクソン、アガシにとってのブラッド・ギルバートのような「マイケル・チャンとの師弟関係」なんていう物語まで提供してくれている。

 錦織選手を見ていると「メンタルはここまで成長できるのか」という時間を経た楽しみ方も可能だ。Youtubeで過去の動画を見て欲しい。今年の全米で長時間の試合を何度も制した姿がいかに成長しているのかが分かる。

 時間を経た楽しみといえば、2016年あたりには「2001年ウィンブルドン4回戦でフェデラーがサンプラスを破った時、2014年全米準決勝で錦織がジョコビッチを破った時、この二つが王者交代のターニングポイントという興味深い試合だ」なんて言われているかと想像すると今から楽しみだ。

 ライバルも選りすぐりだ。ラオニッチ、ディミトロフ、ガルビス、デルポトロと同世代のライバルはゴリアテタイプが多く、そこに立ち向かうダビデよろしく錦織選手は全世界的なヒーローになる可能性が非常に高い。

 現在テニス大国アメリカはスター選手がおらず、「オラの国が育てた」として錦織選手をスターに押し上げてくれる可能性が非常に高い。なんと時代に愛されているのだろうか。


 錦織選手の試合は、応援という枠が取り除から純粋にテニスが面白いと感じさせてくれる力をもっている。

 2014年楽天ジャパンオープンの錦織対ラオニッチという決勝は、1995年のサンプラス対アガシのような、2007年ウィンブルドンのフェデラー対ナダルのような、選手には申し訳ないが「このライバル対決をいつまでも見ていたい」と思える素晴らしい試合だった。

 昨日本当に感じた。テニスはやっぱり面白い。


 この記事を書くために古い試合を何個か見返してあらためて感じた。テニスは確実に進歩しながら、昔と変わらない面白さを保っている。

 いや、本当に素晴らしいスポーツっす。

テニスは面白い