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カエサルもビックリ!? ー 「いいね!」時代の繋がり―Webで心は充たせるか? 書評

 自身もネットジャンキーである精神科医「シロクマ先生」によるネット時代のコミュニケーションについての書籍。

 全体を通してインターネットに対する愛情が溢れております。研究対象として高所から批評を繰り出すわけでもなく、かと言って迎合するわけでもなく、古くからの手がかかる友人を紹介するかのように愛ある文章です。

情動ネットワーク

インターネットは情報ネットは情報ネットワークである以上に情動ネットワークと呼んだほうがお似合いでしょう。是非はさておき、普通の人たちがインターネットを介して摂取しているのは、安全よりも安心、考察よりも「いいね!」、頭が良くなるような読み物よりも気分が良くなるような読み物なのですから。

 著者はインターネットを「感情の網」として捉えた考察を行っています。将来にわたってインターネットにおけるコミュニケーションの主体がFacebookやTwitterなどのソーシャルネットワークサービスという形をとっているのかは疑問ですが、このようなインターネットの情動ネットワーク化は今後も進行しそうです。未来の人がこの本を読んだのなら「昔はまだましだったんだね」なんて言いそうです。

カエサルもビックリ。2000年後の自分の見たい現実しか見ないという状況

インターネットの「見たいものだけが見える」問題は、ユーザー自身の嗜好や性格だけでは説明できない要素を含んで進行しています。抽象的な短文コミュニケーション、タイムラインというシミュラークルの滝、”パーソナライゼーション”というネットサービスのトレンド、そしてユーザー自身の欲求や願望……これら全てが重なり合った結果として、「見たいものばかり見える」「思いたいように思える」インターネットができあがりました。

 2000年以上前にカエサルは言いました。「人間なら誰でも現実のすべてが見えるわけではない。多くの人間は見たいと欲する現実しか見ていない」。

 人間の本質は変わっておらず、テクノロジーがそれを加速させているのかもしれません。この流れは不可逆であり打ち壊し運動で壊せるようなものではないので、この事実を受け入れてどのように進んでいくのか?というのが本書での主題の一つでしょうか。

自己愛ポートフォーリオ構築のすすめ

ネットで自己愛を充たしておくこと、それも、入れ込みすぎない範囲で二つ以上のネットコミュニティに親しんでおくのも悪く無いと私は考えるようになりました。少なくとも心理的にそこそこ余裕のある人は、余裕があるうちに、ネット自己愛充当の手段を複数系統持っておくのもアリではないでしょうか。
自己愛を充たせるコミュニケーションの場を複数持っておくと、窮地に陥ったとき、それらが心理的なリスクヘッジになるんじゃないかと思うのです。

 著者自身がネットジャンキーであるからこそ言える「ネットで自己愛を満たすため」のアドバイスです。ネットというバーチャルリアルも既にリアルの一部であるからこそ、それを踏まえた自己愛を充たせるポートフォーリオを組むというのは非常に示唆に富んでいます。

半径0クリック圏内

半径1クリック圏外を知ろうとしないどころか、見たくないものを片っ端からブロックしてまわり、半径0クリック圏内を自分の願望と思い入れで塗りつぶす個人ばかりで構成された社会は、対話や合意形成がますます成立困難になっていくでしょう。
そういった社会全体の話を抜きにしても、バーチャル自己対象で専ら自己愛をまかない続けていた人は、意のままにならない相手を自己対象として体感しづらくなってしまうのではないか、と私は懸念します。

 ソーシャルネットワークが炎上しやすい原因はこのあたりにあるのではないでしょうか。

 事業者向けに対する情報では、「ビッグデータを分析してパーソナライゼーションを推し進めること」は問答無用の善として捉えられています。しかし、このような情報に触れると、はたしてそうなのだろうか?と一度立ち止まる必要があるのではないかと思ってしまいます。。。立ち止まる事は許されないのですが……


「日本のインターネットは残念になった」「ネットはバカと暇人のもの」と失望するのでなく、人間の心理的欲求の性質とインターネットの性質の両方を踏まえたうえで、これからのネットコミュニケーションのあるべき姿を模索し、実践していく必要があるのだろうと、私は思います。なるほど、私も含めた大半のネットユーザーはバカで暇人で残念な人間なのかもしれません。それでも、そんな私たちなりにインターネットと付き合っていかなければなりませんし、願わくは、情報面でも情動面でも満ち足りて、平穏なネットライフを過ごしたいのですから。

 はい。

「いいね!」時代の繋がり―Webで心は充たせるか?―

「いいね!」時代の繋がり―Webで心は充たせるか?―